鎌倉市が発行している広報誌「広報 かまくら」の2002年11月1日号の2面に掲載された「災害時に飲料水として利用できる井戸があります」という見出しの記事を読んでいて、複雑な気持ちになった。記事は「災害時の断水に備え、井戸所有者の協力により、市内にある二十六の井戸(右表)が災害時に利用できます…」という内容で、災害時井戸提供協力者の一覧表が付いていた。
▽異臭と大腸菌が基準をオーバー
一覧表には、昨夏、岩瀬地区(いわせ下関青少年広場)にオープンした湧水公園の自噴水が新たにリストアップされていた。湧水公園に関しては、その開設の趣旨に賛同し、北鎌倉湧水ネットワークもささやかな協力をしてきた。リストアップされたことは、開設の趣旨が生かされた証明でもあり、大変、喜ばしい。
しかし、この一方で、非常に残念な気持ちにもなった。これまで毎年リストアップされてきた六国見山の麓にある小坂小学校の自噴井戸が、リストから外れていたからだ。後日、小坂小に足を運んでみた。すると湧水口の横の壁に「注意!
このわき水
はのめません」のはり紙があった。さっそく問い合わせ先になっている鎌倉市総合防災課に確認に出向いた。総合防災課は、小坂小学校の自噴井戸をリストから外した理由を「毎年、4月以降、水質検査をしているが、大腸菌が基準より多かったのと異臭がしたため」と答えた。
▽湧水公園のルーツ
残年という気持ちが強いのには、理由がある。実は小坂小学校の自噴井戸は湧水公園の開設と、北鎌倉湧水ネットワークの設立に関係し、ある意味では双方の「ルーツ」といってもいい存在だからだ。湧水公園の「ルーツ」という意味については、北鎌倉湧水ネットワークのHPに掲載してある「湧水公園待望のオープンへ」を読んでいいたければ分かっていただけると思う。「湧水公園待望のオープンへ」の要旨は下記の通りだ。
【要旨】
…最初の一人は、湧水探索集団「グループ・アクア」の鈴木伸治さんだ。表面にはほ とんど出ないが、仕掛け人兼プロデューサーという重要な役割を果たしている。
鈴木さんの「湧水公園」の仕掛けは、数年前、北鎌倉・六国見山近くの小坂小学校の改築にかかわったことから生まれた。この時、校庭の片隅に自噴井戸を掘った。自噴
井戸からはこんこんと水が湧き出た。水質はヨーロッパの名水「エビアン」と同
じ軟水 。ちょっぴり甘い味がする。この水を部活を終えた生徒が、嬉しそうに手ですくって 飲む。評判を聞いた近所の人も、ペットボトルを持ってやってくる。
鈴木さんは考えた。「鎌倉市は、歴史と文化と緑に恵まれている。でも、高齢化が進み、人口が減少傾向にある。停滞を打破するために、湧水を使って、街づくりができないものか。200くらいの自噴井戸がある。しかし、いずれも個人の家のものだ。
そうだ、市民が自由に立ち寄れる、自噴井戸のある湧水公園を作ろう。井戸水を使って、小川も作り、ザリガニを棲めるようにしてもいい。子供が喜ぶぞ。災害時の非常用の井戸に使ってもいい…
「湧水公園待望のオープンへ」
http://member.nifty.ne.jp/Kitakama/2/0629/1.html
▽少年の姿に感動
湧水公園は、「グループ・アクア」の鈴木さんが所属する市民団体「鎌倉市民同窓会」が開設した。「鎌倉市民同窓会」は1999年夏、湧水ウォークを企画し、北鎌倉にあるいくつかの自噴井戸めぐりをした。小坂小学校の自噴井戸もコースに組み入れられていた。
この湧水ウォークに参加した私は、写真にあるように小坂小学校の湧水を手ですくってうまそうに飲む、少年の姿に感動した。日ざしの強い、とても暑い日だった。「
北鎌倉にこれほどの数の自噴井戸があるなんて」という驚きもあった。北鎌倉湧水ネットワークという組織のイメージは、この時に膨らんだといってもいい。
▽これほどまでにひどいことをしていいのか
なぜ、小坂小学校の自噴井戸が災害時に飲料水として利用できなくなったのか? この疑問に対し、小坂小学校周辺の住民の間には、この自噴井戸のほぼ真上に当たる位置で、急ピッチで進められている六国見山の宅地開発工事が関係しているのではないか、という声が上がっている。
六国見山の宅地開発工事は現在、麓と中腹で同時進行している。工事現場がすぐ目の前にある場所に住む男性は「人間が自然に対し、これほどまでにひどいことをしていいのだろうか」と顔をしかめる。麓の方は山が削られ、コンクリートで固められている。畑だった中腹の方は、麓の山を削った際に生じた土砂で埋め立てられている。
【参考 六国見山の宅地開発】
小津安二郎は眠れない
http://member.nifty.ne.jp/Kitakama/2/0261/1.html
姿見せた中世の大規模遺跡
http://member.nifty.ne.jp/Kitakama/2/2.html
▽原因は不明と鎌倉市総合防災課
「地下水には変動がある。宅地開発が関係しているとは断定できない」。鎌倉市総合防災課はこう説明する。確かに、宅地開発と小坂小学校の自噴井戸が災害時に飲料水として利用できなくなったことの因果関係を、科学的に証明することは非常に難しいだろう。
しかし、森が湧水を育んできたということ事実は否定できないだろう。NPO法人「緑のダム北相模」の石村 黄仁は「何故、森林を“緑のダム”と言うかと申しますと私どもに以下の保水力調査
記録があります。
A 十分な手入れがされた針葉樹林の保水力 2.31キロリットル/ヘクタール
…国際FSC認証森林:三重県速水林業…
B 放置したため雪害に痛められた森の保水力 0.32キロリットル/ヘクタール
…相模湖町428-22林番の針葉樹林…
(AとBの保水力の)差は、8倍です。(水源を確保するため)コンクリートのダムは必要ですが、安定的に良質の水を確保するには、森林を持続的に維持、管理、保全、つまりキチンと森林に手を入れなければなりません」
(森は緑のダム http://member.nifty.ne.jp/Kitakama/8/7.htmより)と指摘している。
(了)
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