この夏、私だけの観音菩薩像がもう一体誕生した。友人の晏侶さんが、屋外用とは別に、室内用につくってくれたのだ。高さ約20センチメートル。穏やで優しい表情をした小さな観音菩薩だ。倒れるといけないので、昨年の1月7日の愛宕神社(東京・港区)のおたきあげの日に、お神酒をいただくために買った一合枡の中に入ってもらっている。おさまりがいい感じだ。
ほぼ毎日、観音菩薩の前で坐禅を組み、お経をあげている。その間、観音菩薩は「相変わらず下手ね」といいつつも、微笑みながら、じっと耳を傾けてくれているような気がする。唱え終わると安堵感と愛おしさのような気持ちが湧いてくる。お陰で観音経の偈は、どうやら諳んじることができるようになった。すると今度は、観音菩薩のことをもっと詳しく知りたいと思うようになった。そこで、本で調べたり、ネット検索してみた。
▽地蔵菩薩と人気を二分
「慈悲」に溢れ、身近な願いを叶えてくれると信じられている観音菩薩は、日本では、地蔵菩薩(お釈迦様の入滅後からお釈迦様の「未来仏」である弥勒菩薩が現れるまでの間、すべての人々を救うためにこの世に出現した救世主)と人気を二分する。だから、日本中いたるところに観音菩薩の像がある。
記憶を辿ると、私が生まれて最初に観音菩薩の名前とその像に接したのは、故郷に近い千葉県銚子市の飯岡観音だったという気がする。もっとも、子どもの時だったから、お目当ては、飯岡観音への参拝ではなく、近くにある今川焼き屋さんだった。店の名前は確か「さのや」だったはず。今川焼きには、あんこがたっぷり入っていた。今と違って、当時は甘いものが大好きだった。香ばしい香りが今でも脳にインプットされており、楽しい思い出が蘇ってくる。
▽いまだに人気の観音霊場巡り
観音信仰は「観音経」に由来する。「観音経」は「法華経」の「観世音菩薩普門品(かんぜおんぼさつふもんぼん)第二十五」の略称である。「普門」はどこの門から入ってもいいという意味だ。
ここでは、観音菩薩は、仏、聖者、天神、国王、長者、僧侶、婦女身など33の姿に変身して、すべての人々のあらゆる悩みや苦しみを救ってくれる万能の救済者だと説かれている。
観音信仰が生み出したものに33カ所観音霊場巡りがある。33という数字は、33の姿に変身し人々を救済してくれることにちなむ。33カ所観音霊場巡りは、平安時代に西国(さいごく、関西地方)や板東(ばんどう、関東地方)などで誕生した。いまだに人気が衰えず、日本の各地に70種類以上もあるという。
▽変化観音の基本は聖観音
観音菩薩は、役割に応じて7変化する。基本が一面二臂(いちめんにひ、1つの顔と2本の腕)の人間そのままの姿をしている聖観音(しょうかんのん)だ。聖観音のほかの観音菩薩は、千手観音(せんじゅかんのん)、馬頭観音(ばとうかんのん)、十一面観音(じゅういちめんかんのん)、准胝観音(じゅんていかんのん)と不空羂索観音(ふくうけんじゃくかんのん)、如意輪観音(にょいりんかんのん)の六つ。
こうした七つの観音菩薩は、変化観音(へんげかんのん)と呼ばれ、33カ所観音霊場に祀られている。
千手観音は千の手とそれぞれの手に一つの眼を持ち、漏れなく人々を救済する。馬頭観音は観音菩薩の中では唯一、怒った顔をしている。頭上に馬の頭を冠している。馬が草をむさぼり食うように人間の煩悩を食い尽くすことを象徴している。
十一面観音はその名の通り、11の顔を持っている。さまざまな表情で、人々に語りかけ、仏道に導く役割を果たす。准胝観音は「菩薩の母」、「仏母(ぶつも)」といわれる。母性を象徴し、子授けの観音菩薩だ。三つの目と18本の手を持つ。不空羂索観音は、すべての人を逃がさずに救済する役目の観音菩薩で、
羂索とは、網と釣り糸を意味するという。如意輪観音は、宝珠や輪宝の功徳によって人々の苦を救う観音菩薩である。
▽大船観音は大船のシンボル
鎌倉はお寺が多い。そして、お寺には数多くの観音菩薩が安置されている。私が知っている有名な観音菩薩3体を紹介したい。1体は大船観音(おおふなかんのん)。鎌倉への玄関でもあるJR大船駅にほど近い小高い丘の上に建立された、高さ約25mの上半身だけの巨大な観音様だ。電車からもよく見えるし、自宅の2階の窓からも拝見できるので、個人的に非常に親近感を持っている。
1929年に永遠の平和を願って、地元有志が大船観音の建立に着手、1934年に像の輪郭ができあがったが、資金難や戦争のため一時工事が中断した。戦後、建立を再開、1960に完成した。1981年からは曹洞宗の大船観音寺となった。四季折々の花が楽しめるが、春の桜が美しい。大船のシンボル的な存在である。
▽長谷寺の「十一面観音菩薩」は本邦最大級
2体目は女人救済の「駈込寺」として有名な北鎌倉の東慶寺に祀られている像高34cm・全長54.5cm・寄木造りの水月観音だ。「鎌倉で美男の代表は長谷の大佛様、美女の代表は小さいけれど松ヶ岡東慶寺の水月観音様」(東慶寺HP
http://www.tokeiji.com/bunka/03.html)といわれている。
3体目が、長谷寺の本尊である「十一面観音菩薩」(長谷寺HP http://www.hasedera.jp/midokoro.html)。像高は9.18mもある。本邦最大級の巨像だ。長谷寺の
観音堂は「坂東33観音」および「鎌倉33観音」の第4番霊場に数えられている。観音堂に併設された宝物館には、観音菩薩が33の姿に変じて衆生を救済する姿を表現した「三十三應現身立像」が展示されている。
このHPのメニュー・特集(現代に生きる禅の精神)で、観音菩薩と観音経についてこれまでに2度書いた。今回の分と一緒に読んでいただければと思う。さまざまな場所で、観音菩薩をお参りする時、新しい発見があるかもしれない。
【参考】メニュー・特集(現代に生きる禅の精神)バックナンバー晏侶さんが彫ってくれた私だけの観自在(観音)菩薩像―宗派を越えて読まれている観音経―
http://www.kitakama-yusui.net/tokusyu/zen-5.html
法華経と日蓮にアプローチ!―宮沢賢治をより理解するために―
http://www.kitakama-yusui.net/tokusyu/zen-6.html
(了)
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