特   集


  旧小泉邸は北鎌倉の景観の急所―マンション建設問題を報告


 2月29日、鎌倉商工会議所で開かれた「まちなみ景観を破壊から守る会」(喜多村治雄代表幹事)主催の「まちなみ景観を破壊から守るために 第7回シンポジウム」に招かれて、「北鎌倉の景観とマンション建設問題」について報告した。
 参議院議員の浅尾慶一郎氏が「子孫に誇れる景観とあるべき街づくり」というタイトルで、基調講演。弁護士の薦田 哲氏が「景観破壊型開発と最近の判例・行政の動き」について報告した。その後、各地における住民運動の成果や新しく発生したマンション建設問題の説明があった。

【北鎌倉の景観とマンション建設問題・報告のポイント】
(1)北鎌倉の景観の特徴
 緑と歴史的建造物、日本家屋の融合が素晴らしい。かつては円覚寺の門前町として栄えた。禅宗文化の影響が色濃く残っている。大船方面から北鎌倉駅に向かって左に円覚寺の裏山の六国見山の森、右に台峯緑地、その間に鎌倉街道、横須賀線に沿って街並みが形成されている。この街並みは日本の精神基盤に関係しているように思う。大切にしたい。

(2)マンション建設問題の経緯
 北鎌倉・旧小泉邸跡地にマンション建設を計画している山田建設は、マンション建設計画の概要を盛り込んだ掲示板を小泉家旧所有地(約3900平方メートル)に設置するとともに、2003年11月11日と同年12月23日、2004年2月7日の3回にわたって、山ノ内公会堂で近隣住民への説明会を開催した。

【2003年11月11日の説明会で示された計画概要】
(1)5階建て
(2)実質最高高さ16、05メートル(平均地盤面からは14、80メートル)
(3)床面積は約8、610平方メートル
(4)62戸
(5)ロの字型
(6)階高3、01メートル

【2003年12月23日の説明会で示された計画概要の修正案骨子】
(1)床面積は約6、823平方メートル
(2)コの字型
(3)63戸
(4)階高2、96メートル
 *床面積が約2割カットされ、ロの字型がコの字型になったのに戸数が1戸増えたのは、駐車場を外部にしたのと1戸当たりの占有面積を減らしたため。「実質15メートル以上、5階建て」とする従来の姿勢を崩さなかった。

【2004年2月7日】
 説明会の議事録の配付と確認の手続きなどを巡って、混乱し、計画概要の新たな修正案の具体的内容の説明に入れなかった。次回、議事録を配付し、内容を確認してから説明に入ることで山田建設と出席した近隣住民が合意。

(3)北鎌倉の景観と旧小泉邸
 かつて小泉家は、北鎌倉屈指の地主だった。所有していた面積は広町緑地に匹敵する約40ヘクタールともいわれている。北鎌倉駅手前(大船駅寄り)の権兵衛踏切は、先代の小泉権兵衛氏が寄付したことに由来する。しかし、不動産関係者によると相続税の滞納で、今回のマンション建設予定地の本宅も含め、差し押さえられてしまった。
 旧小泉邸は街並みにとって重要な位置を占めている。急所といってもいい。赤レンガの洋館は北鎌倉に唯一、残された洋館らしい洋館だ。県道側の庭には見事な白モクレンの大木が生えており、花の咲く時期は、道行く人の目を楽しませてくれる。
 一方、JR横須賀線の線路添いには、カシやイチョウの大木が茂っている。秋になるとこのイチョウの葉が黄色く色付く。それに洋館の赤れんが、黒塀とカシの葉の緑が見事に調和している。これを見て、北鎌倉らしさ体感する人が多いはず。

(4)問題点
鎌倉市の場合、マンション建設に関し、高さについては法的な規制はかけていない。しかし、15メートルを超える場合は、鎌倉市長の諮問機関である「都市計画審議会」の答申を得る必要がある。山田建設が説明会で配布した資料には「最高高さは14.80メートル」と明記されているが、実際は15メートルを超えている。それなのに諮問対象から外れている。平均地盤面という考え方によるものだ。実際に見た感じが大事なのだ。道路に面して15メートルを超え5階建てのマンションは、他の建物から突出し、不調和をもたらすと同時に圧迫感を与え、北鎌倉の景観を台なしにしてしまう。山田建設に追随する業者の出てくる恐れもある。

(5)景観保全のために活動している3団体
○北鎌倉湧水ネットワーク(野口稔代表)
http://member.nifty.ne.jp/Kitakama/
 北鎌倉の自然環境保全と街づくりのための活動をしている。北鎌倉・六国見山の湧水を生かした街づくりができればと考え、地ビール「北鎌倉の恵み」を企画、売り上げの一部をNPO団体に寄付している。北鎌倉のマンション建設問題については、2002年11月に北鎌倉湧水ネットワークのHPに「失われゆく北鎌倉の街並み  小泉邸と圓(まどか)荘が取り壊される!」という記事を掲載したのを皮切りに、次々に問題点などを指摘した記事を掲載している。今年1月には「周囲の建物から際立つことがないよう事業者に要請―北鎌倉の景観に関する鎌倉市長の回答―」(別紙参照)を載せた。

○北鎌倉まちづくり協議会(坂田庄治代表幹事)
http://www.kitakamakura.org/
 北鎌倉をいっそう住みやすく、いっそう魅力のある町にするために、北鎌倉の住民をはじめ、北鎌倉を愛する人々が話し合い、行動することを目標とした集まり。北鎌倉匠の市(春と秋)・匠展(秋のみ)を開催。04年春の匠の市は4月3(土)、4日(日)。会場は、円覚寺参道、東慶寺参道、浄智寺参道。
北鎌倉のマンション建設問題では、小泉邸跡マンション部会を設置、「実質15メートル以下、4階建て以下の北鎌倉の景観にマッチしたマンションの建設」を山田建設に強く要求。山田建設から「ハクモクレンやカシやイチョウの大木は現状のまま保存。黒塀は基本形を残す」との言質を取った。4月4日(日)の匠の市と同時に、景観協定制定に向けたシンポジウム(場所、山ノ内公会堂)を開催する。

○北鎌倉の景観を後世に伝える基金(NPO法人、なだいなだ理事長)
http://www.kitakamakura-trust.org/
台峯緑地をナショナル・トラストの手法で保全するために発足。緑に囲まれた北鎌倉の貴重な景観を後世に伝える観点から、マンション建設計画に反対することを表明、この趣旨を盛り込んだ文書を石渡徳一鎌倉市長と山田建設の山田健社長に届けるとともに周辺住民にチラシを配布した。
(了)

 

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