これはあくまでも独断と偏見である。美しい海岸は日本にはたくさんある。しかし、葉山から江ノ島に至るまでの海岸ほど、人間と自然が馴染んだ海岸は日本にはないと思う。この海岸の潮風に吹かれながら景色を眺めていると、いつもほっとした気持ちになる。
この海岸に沿って国道134号線が走っている。TARO'Sは国道134号線の稲村ガ崎の交差点のすぐ近くにある。店主は甘道三郎さん。甘道さんは北鎌倉の喫茶店兼酒房「侘助」の前店主である。店の名前のTARO'Sは、息子さんの名前にちなんでいる。入口のドアの上にかかっている小さな看板が、とてもオシャレだ。
▽住所 鎌倉市稲村ガ崎1−15
▽電話 0467−25−4386
「侘助」
http://member.nifty.ne.jp/Kitakama/shop/wabisuke.html
▽バイクが並び一見、敷居が高そうだが…
コーヒーだけでなくお酒も出る。お店の前にバイクがづらっと止まっているので、一見敷居が高そうだが、それはあくまでも思い過ごしだ。安心して入れる。何年か前、稲村が先の知人のお宅で開かれたガーデンパーティに招かれた。
パーティが終わった後、私がTARO'Sに寄ってから帰るというと、出席者から「是非、一緒に連れていって」と懇願された。散歩などで時々、店の前を通る。気になる店なので、入ってみたいと思う。だが、恐そうな気がして入れない―とのことだった。
▽窓越しに見る夕陽を堪能
店内の窓越しに見る夕陽が素晴らしい。昨年の春だった。江の島の真上に沈んでいく夕陽を堪能した。
「甘道さん、随分贅沢ですね。こんな素晴らしい夕陽をしょっちゅう、見てるなんて」
「夕陽を見れるのは3日に1度。稲村ガ崎から見る朝陽も、夕陽に劣らずきれいですよ」
「より 良きころの夢」でピュリツァー賞を受賞したカメラマンの故酒井淑夫は生前、奥さんの実家がある極楽寺に住んでいた。稲村が崎をこよなく愛し、愛犬を連れて海岸を散歩するのが日課だっという。酒井淑夫も海岸にたたずみ、この夕陽を見入っていたのだと思う。
「戦場 澤田教一・酒井淑夫写真展」
http://member.nifty.ne.jp/Kitakama/5/P.html
▽シャイな人
私と同じ町内(北鎌倉・六国見山中腹)に住んでいる。
お願い事をすると労を厭わず動いてくれる。
芥川賞作家の藤沢周さんと詩人の城戸朱理さんに原稿を依頼した時に大変お世話になった。願いが叶って、お礼を言うと決まって「私にはこれしかできませんから」の一言。
俳優の高倉健を彷彿させる。本質的にシャイな人である。だから男性と女性の両方から好かれる。甘道さんと話がしたくて、かなり遠方から足を運ぶお客さんもいるという。湘南の海の潮騒と甘道さんの人柄が、日常に疲れた都会人の心を癒してくれるのかもしれない。(了)
|