マイ・ショップ

 ◇平八工房―友禅作家のルーツは宮大工―(友禅&日本画)

 北鎌倉には、匠の業を持った人たちを惹き付けずにおかない何かがあるようだ。
「平八工房」の主宰者で、友禅作家かつ日本画家の佐藤平八さんも、北鎌倉に魅せられた現代の「匠」の一人である。
「創作に当たっては、自然という素材が一番大切。しかし、大都会ではその素材を間近で見ることができない。北鎌倉にはその自然が残されている。しかも、歴史があるから刺激的で、創作意欲をかきたてられる。奥が深い」
 1994年、佐藤さんは工房を東京から、念願だった北鎌倉に移した。緑に囲まれた「平八工房」は、JR北鎌倉駅から徒歩7分の距離にある。円覚寺側の改札口を出て、線路に沿って大船方面に向かって歩く。権兵衛踏切のすぐ先だ。右側に「平八工房」の看板が出ている。テラスにはテーブルと椅子があって、自由に立ち寄ることができる。希望すれば工房見学や「友禅体験」も可能だ。

 住  所 鎌倉市山ノ内696
 電  話 0467-47-5951
 営業時間 午前10時半から午後4時半まで
 定休日  毎週月曜日

日本画創作中の
佐藤平八さん

▽鎌倉ならではの素材を取り入れ
 友禅は糊の線で模様を描き、色づけしていく。完成品は優美で、華やかである。しかし、制作工程は、細分化すると26工程もある。「一人前になるには10年かかる」。地味だし、細やかな神経と根気が要求される世界だ。1959年、友禅作家、故田畑喜三郎に弟子入りした。15歳の時だった。
 手取り足取り、教えてもらえるわけではなかった。最初は子守り。その後、基本を習うのではなく、周囲の職人の仕事を見て覚えた。違和感はなかった。父親が栃木県那須郡馬頭町の宮大工の棟梁だったからだ。生まれた時から、職人の世界の空気を吸って育った。「匠」の遺伝子は、父親から引き継いだものだ。
 「平八工房」から生み出される友禅の主要な作品は、帯、着物、ショール、額絵、掛け軸、屏風など。北鎌倉ならではの素材を取り入れ、大都会で人々が忘れかけている自然の花、鳥、人物などを伝統を踏まえた匠の業で表現しているのが、大きな特徴だ。オーダーメードにも応じている。

▽今春、鎌倉で二つの友禅展 
 現在、「平八工房」で、実際に友禅の制作に携わっているのは、田中光江さん、森田裕美子さん、富山浩さんの3人のお弟子さんである。佐藤さんはもっぱら指導にあたっている。3人は20代から30代と若い。若いといってもキャリアは積んでいる。田中さんはこの道18年だし、森田さんが10年。最年少の富山さんも既に6年のキャリアがある。
 平八工房では、友禅の世界をより多くの人たちに知ってもらうために、2004年2月6日〜2月26日(「ひなまつり展」)と2004年4月2日〜4月14日(「平八の弟子3人展」)に友禅の展覧会を予定している。場所はいずれもJR鎌倉駅西口のギャラリー 「壹零参堂」(IWASA-Dou)だ。

「壹零参堂」
 住所 248-0012  鎌倉市御成町12-8 ノア鎌倉2F
 電話 0467-24-5103

▽花鳥画家として大成したい
 友禅作家として独立した5年後の1972年、日本画家の堅山南風に師事した。堅山南風の師は、近代日本絵画史上に惨然と輝いている巨匠、横山大観。堅山南風は、題材の多彩さで知られ、歴史、花鳥、人物画を描いた。私は晩年、タヒチに渡って描いたゴーギャンを連想させる鮮やかな色彩の絵が好きだ。日本画を学ぼうと思ったのは、画力をつけるためだった。
 学ぶ過程で、自信も生まれ、チャンスがあれば「花鳥画家として大成したい」と思うようになった。「友禅という工芸の技法と花鳥画を融合した独自の世界の確立が目標だ。花鳥画にこだわるのは、野山の中で育ち、自然が好きだからだ。
日本画のもう一人の師である杉崎芳章氏から『自然が師ですよ』と言われた。関東の風景、特に富士山と駿河湾を描いてみたい」
(了)

平八工房が制作した友禅
(03年秋・北鎌倉匠の展へ出展)
「椿」(友禅の技法を取り入れた佐藤平八さんの日本画)




もどる