*「木に魅せられた二人の男」
JUON(樹恩)NETWORK 小林正美・全国大学生協連専務理事
朝日新聞の「ひと」の欄を読みながら「わが意を得たり」と思わずうなずいた。小林正美全国大学生協連専務理事が「JUON(樹恩)NETWORK」の仕掛け人として紹介されていた。私が主張する分散型市民運動のキーワードは、ネットワークだ。小林さんに、“仕掛け”について、お話を伺いたいと申し入れた。池袋の私の行き付けの飲み屋で会った。小林さんは「『人・自然・環境』に理解を示す、全国レベルのボランティア組織として設立を呼びかけた。国や企業に他力本願的に頼るのではなく、自立・自助の志を持って、事態の打開を図る。そして、新しい価値観に基づいた生活様式を創造したい」と熱っぽく語った。具体的には全国の都市と農村漁村の住民および国や自治体の関係者をネットワークで結び、森林・河川・湖沼・海浜などの環境と景観の保全改良、地方文化の発掘と普及、過疎過密問題の解決、不時の災害の救済・復旧などに対するボランティア活動の支援と拡大教化を図るという。
「樹恩」の名前の由来は「宮大工の故西岡常一さんが、著書で紹介していた『釈迦は大昔に、樹恩を説いた。木がなければ人間が滅びてしまうと。』からいただいた」。設立のきっかけは阪神大震災だった。「最初のテレビの報道では、地震の輪郭が見えなかった。しかし、大変な事態が起きていると思って、現地入りした。一週間、あるいは一カ月のつもりが、四カ月間張付くことになった。そこで見たのは、戦場だった。二一世紀間近になった日本の神戸で、避難民の群れを自分の目で実際に見た。そんな中で被災者の救援に狂奔している学生の活躍に目を見張り、学生観を一変させた。場ときっかけさえ与えてやれば、彼らはやると確信した」。樹恩ネットワークの最初の試みは、徳島県三好郡山城町の山城町森林組合とタイアップした杉の間伐
材を利用した割り箸の製造の提案だった。山城町森林組合が、生産した割り箸を買い上げ、大学生協に納入するシステムを採用した。環境・森林・福祉を守るという理念の実現のために、割り箸生産の一端を障害者も担っている。「樹恩割り箸」は多くの関係者の共感を呼び、現在五十以上の大学生協の食堂に納入されている。
森林ボランティア活動の一環である「森林の楽校」という企画も注目を集めている。この企画は、実際に林業体験や地方に住む人たちとの交流を通じて、森業、林業、自然環境、地方文化について考え行動する「森林活動への入り口」と位置付けられている。二〇〇〇年度は「神の泉・森林の楽校」(埼玉県)、「トキ色の島・森林の楽校」(新潟県)、「四国のへそ・森林の楽校」(徳島県)、「水源の森・森林の楽校」(群馬県)、「べにばなの里・森林の楽校」(山形県)と全国五ヵ所で開催された。「森林の楽校は、阪神大震災で被災し、下宿に困っていた学生のために大学生協が、仮設学生寮を建設したが、この時、徳島県三好郡の林業関係者から提供してもらった杉の間伐材を使用した。このつながりを大切にしたいとの思いから、三好郡で林業体験の交流が始まった」と小林さんはいう。
*「木に魅せられた二人の男 JUON(樹恩)NETWORK」は「北鎌倉発 ナ ショナル・トラストの風」に掲載されています。
http://member.nifty.ne.jp/Kitakama/7/7.html
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