変わらない街並みであり続けてほしい―。北鎌倉に関しては、常にそう思っている。街並みが変わるということは大袈裟かもしれないが、「目に見えるものが、単に消えてなくなるということだけでなく、日本が今後、拠り所にしなければいけない精神的なものまで、失わていくような気がしてならない」と考えているからだ。

▽跡地には5階建てのマンション
　しかし、この街並みにとって重要な位置を占めていた赤レンガの洋館と圓（まどか）荘が、相次いで取り壊されることになった。赤レンガの洋館とは北鎌倉一帯の地主である小泉邸のこと。北鎌倉に唯一、残された洋館らしい洋館だ。小泉邸の敷地面積は約1000坪。県道側の庭には見事な白モクレンの大木が生えており、花の咲く時期は、道行く人の目を楽しませてくれた。
　一方、ＪＲ横須賀線の線路添いには、カシやイチョウの大木が茂っている。秋になるとこのイチョウの葉が黄色く色付く。それに洋館の赤れんがとカシの葉の緑が見事に調和し、とても美しい世界を現出していた。敷地内には純日本風の家屋もある。小泉邸の取り壊しは既定路線で、5階建てのマンションが、建設されることになっている。戸数は50戸。一戸あたりの広さは、約100平方メートル。事業者と設計会社も決定済みで、2003年4月に着工予定だ。
　洋館は無理にしても、白モクレンやカシやイチョウの大木は残してほしい。それと5階建ては勘弁してほしい。景観を著しく損ねてしまう。北鎌倉らしい街づくりを目指している市民団体「北鎌倉まちづくり協議会」は、11月23日（土）夜、東慶寺でこの問題を協議する予定だ。景観を保全するための具体策が打ち出されることを期待したい。

北鎌倉まちづくり協議会
http://www.kitakamakura.org/

小泉邸の洋館		台峯方面から見た小泉邸

▽圓荘には川端康成の書が
　圓荘は小泉家の先代の寄付によって設置された通称「権兵衛踏み切り」のすぐ近くにある。小泉邸とは線路を挟んでいる。入口には「圓荘」という名称が掲げられている。二階建てのとても雰囲気のあるアパートで、既に取り壊されてしまった旧高見順邸に隣接している。高見順の未亡人（故人）が、建てたものだという。この圓荘も取り壊しが決まり、在住の住人は、１ヶ月以内の退去を求められているという。
　入口に掲げられている「圓荘」と書は、高見順と川端康成が親しかったため、川端康成が高見順の未亡人に書いてあげたもののだという。最近、「圓荘」の書が白字になった。理由を近所の人に聞いたら「これはレプリカ。本物は3000万円で鎌倉文学館に売却された」との答えが返ってきた。そこで、鎌倉文学館に確認したところ「そういう事実はありません」と即座に否定されてしまった。今のところ、真相は不明だ。

圓荘　和泉　あき相模女子大学名誉教授
http://member.nifty.ne.jp/Kitakama/8/6.htm

▽背景に相続税
　地元の不動産屋さんによると旧高見順邸と「圓荘」の敷地はもともと小泉家からの借地だという。「相続税の滞納で、小泉家の本宅の敷地ともども差し押さえられてしまった」。二つの話は連動していたのだ。おりしも、旧正田邸の取り壊し問題が、マスコミの大きな話題になっているが、この背景にあるのも相続税の問題だ。
　作家・書誌学者で英国事情に詳しい林望氏は「日本では古いことが、汚いあるいは忘れられ価値がないことと同義語になっている。これに対し、英国では古いものほど美しいとされている」と嘆く。「何か変だよ、日本人！」。そういいいたくなる。

圓荘		通称「権兵衛踏み切り」付近

▽きっかけは１本のメール
　今回のコンテンツ掲載は、北鎌倉湧水ネットワークにアクセスしていただいた北鎌倉在住の方の、１本のメールがきっかけとなった。北鎌倉湧水ネットワークのホームページは、将来的には地域に根ざしたネット版の地域メディアを指向している。現役サラリーマンの私は、自宅と会社の往復で地元情報には疎い。地元の方から寄せられる情報は、貴重でかつありがたい。

【北鎌倉在住の方からのメール】
　圓荘在住の住人によると、１ヶ月以内の退去を求められているそうです。高見順旧宅と共に辻堂かどこかの業者に買われ、旧宅は、既に３分割で売却開始後、１宅地として売却済み。圓荘も宅地化されて売却開始予定のようです。
　尚、噂によると、小泉邸も既にマンションになることが決まったとのこと。北鎌倉の玄関口の門柱の様な存在であった樹林が消滅するようです。
　善応寺谷も奥は山が無くなり、半ばは新興住宅地となり、とうとう入り口もコンクリートジャングルになってしまいます。我が家の周りも、今年になって木々が失われ、来年には、ただの住宅地に埋没予定。住む魅力も失せました。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
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