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 社長が最大の広報マン
        =なぜか瀬戸朝香の写真が…=


 生命保険業界大手の安田生命保険は、ちょっと変わっている。経費削減を理由に、他の企業がマスコミとの新年会を軒並み中止しているの、頑固なまでに続けている。 それも現役の記者だけでなく、OBにも声をかけている。新年会はなんと今年で18回目を迎えたという。
▽したたかな広報戦略
 長く続けているのには、それなりの理由があるはずだ。私は同社のしたたかな広報戦略が、その理由だと推測する。企業の広報関係者から、「広報をどのようにしたらいいか」と聞かれることがあるが、「社長が最大の広報マンだということを理解してもらってはどうか」と答えている。この考え方に立たないと広報担当セクションが、いくらしゃかりきなっても本当の意味での効果的な広報は、期待できない。なぜなら、ベースには、「デスクロージャー」、つまり、経営内容の公開という哲学が必要だからだ。それには社長に自分の口から、経営理念や経営戦略を語ってもらう。これが一番手っ取り早い。CMで、企業イメージを売るだけでは限界がある。
 具体的な例では、最近の雪印ブランドの崩壊がある。汚染事故が発覚した時に、当時の社長が自分たちが事故を起こした当事者なのに、取材陣に当たり散らしていた。その姿がマスコミに報道された。「社長が最大の広報マン」という自覚があれば、絶対にこういうことはしない。インターネット取引をいち早く導入し、破竹の快進撃を続け、一地場証券を東京証券取引所に上場させた松井道夫社長も「広報こそ最大の仕事だと考えている。広告の案文もそうだが、雑誌や講演で述べる内容は、社外に向けての私のメッセージであると同時に、社内向けのメッセージでもある」と自著の「おあやんなさいよ でも つまんないよ」(ラジオたんぱ)で述べている。
▽一人のリーダーが組織を変える
 今回の新年会での宮本三木喜海彦社長のあいさつは「社長が最大の広報マン」という役割を十分果たしていたと思う。宮本社長のあいさつの内容は、以下の通りだ。
 「昨年の11月末、母校の熊本県の八代高校の体育館で、今までの歩みを振り返って、という演題で講演をした。学生1033人と父兄200人が、“地べた座り”で、1時間20分、ざわめきもなしに熱心に聞いてくれた。これだけでも感激したが、その後の一つ一つの出来事に感動した。講演に対し、女子生徒が代表で謝辞を述べたが、これが素晴らしかった。昼休みに生徒が会う人ごとに挨拶を交わしていた。びっくりした。国公立大学への合格者も、熊本県でトップ、全国でもベスト10に入っているという。同級生に理由を聞いたら、ある時期から変わったという。ある時期とは、一人の校長が就任した時だった。この校長は理念を持って、教師と生徒を導いた。その理念とは誠実にして真理を愛する、自立を旨とし協和を重んじる、活発にして進取の気性を尊ぶ。これは、安田生命の社祖・安田善次郎の経営理念と瓜二つだ。組織というものは理念と実行力を持った一人の人間、一人のリーダーで変わるものだとつくづく思った。今、多くの日本の企業のリーダーは、自らが被害者みたいな言い方をしている。でも、それは違う。業績が悪いのは、リーダーが悪いのだ」 企業に限らず、さまざまな分野で、宮本社長が話したような、リーダーが現れれば、混迷の度を深める日本の現状も打開できるだろう。宮本社長の話は、1企業のPRを超えた普遍性があると思う。
▽一段ときれいになった瀬戸さん
 たまには役得もある。同社のイメージキャラクターをしている女優の瀬戸朝香さんが懇親会場に姿を見せたのだ。1昨年までは女優の市毛良枝さんとプロゴルファーの中島常幸さんがイメージキャラクターをしていた。ゴルフ界の若き帝王、タイガー・ウッズが衝撃のデビューをした頃、中島さんとトイレが一緒になったついでに聞いてみた。「中島さん、ウッズはどうなんですか」「ものが違います」。確か、それから1年後、ウッズはマスターズでぶっちぎりの優勝を果たした。
 瀬戸さんを見て、まず思ったのは昨年より、一段ときれいになったのと身体が細いこと。女優さんはある意味では、時代が求める願望なり、欲望の象徴だ。そうした象徴になることによって、時代のエネルギーを吸収し、輝きを増して行く。テレビの画面でみると人間は30%くらい、実物より太って見える。若い女性がダイエットに走るのも無理はないなと思った。

 懇親会場には女優の瀬戸朝香さんの姿も
(安田生命保険 提供)
▽19回目の新年会は?
 新年会が終わって、しばらくしてから安田生命は明治生命との経営統合を発表した。現在はどうかよく分からないが、ずっと昔取材した記憶では明治生命は広報に関しては、あまり熱心というか確たる広報戦略を持たなかったし、安田生命とは、企業カルチャーも違っていたよう気がする。金融の自由化と国際化、不況の深刻化に伴い、生命保険業界の経営は厳しさを増している。その中で、両社の経営内容は健闘が目立つ。経営統合は、異質なもの同士が、反発しあうのではなく、刺激しあうことで、さらに体質を強化する狙いがあるのだろう。ネットワーク時代においては、ただやみくもにスケールメリットを追求しても、非効率性を増すだけで、競争力の強化にはならない。「来年のことをいうと、鬼が笑う」ということわざがある。それでなくても変 化の激しい時代だ。でも、個人的な興味としては、来年19回目の新年会は果たして、あるのだろうか?

 

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