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10月20日から21日までの2日間、大分県臼杵市で開かれた第19回ナショナル・トラ
スト全国大会に参加した。今大会のテーマは「歴史遺産と自然環境との共生―臼杵型 ナショナル・トラストの実現に向けて―」。九州で初めて開催されるナショナル・ト
ラストの全国大会とあって、地元紙の大分合同新聞が、開幕を20日付け夕刊の一面 で、大きく報じていた。
豊後の小京都と称される臼杵市は、大分県東南部に位置し、人口約3万7千人、三方 を緑の山に囲まれ、正面に豊後水道を望んでいる。歴史的には平安時代から鎌倉時代
に造られた国宝・臼杵石仏が有名で、戦国時代にはキリシタン大名・大友宗麟が築城 し、権勢を誇った城下町だ。石畳、漆喰づくりの木造家屋が続く迷路状の街路は、中
世城下町の景観を色濃く漂わせている。自然環境と歴史環境に恵まれている点では、 鎌倉市と共通している。
大会は19日のプレ大会を含めると21日までの3日間の日程で、開催されたが私が参 加したのは20日午後の「開会式+団体報告」、シンポジウム「歴史遺産と自然環境と
の共生」、交流会「つどおう 歴史と文化の薫る地で」と21日の記念講演「まちまも り」と「まちのこし」、ワークショップ全体会「臼杵型トラストを探ろう」だった。
参加した中のプログラムで印象に残ったのは、映画監督の大林宣彦氏と後藤國利臼 杵市長の記念講演「まちまもり」と「まちのこし」だ。自然環境や景観の保全、街づ
くりの大きなヒントを得た気がする。大林監督は故郷の尾道市を舞台にした「転校生 」「時をかける少女」「さびしんぼう」の三部作で高い評価を受け、現在、臼杵を舞
台にした「なごり雪」を製作中だ。
後藤市長は、30年前臼杵市に持ち上がったセメント工場建設計画に対し、地元紙に 「臼杵を白い町にしないで下さい」と全面広告を打つなどし、反対運動の先頭に立っ
た過去がある。「待ち」とは、新しい変化については、時間をかけてゆっくり成熟す るのを待つことであり「のこし」というのは、古い大切なものを、しっかり守り残す
ことだと考え、「待ち残し」による「町おこし」を基本理念に掲げている。
講演のさわりを紹介する。大林監督は臼杵で映画を撮ることになった理由を「戦後 日本は開発という名の破壊によって、心のひだを壊していった。私は故郷であえてこ
のひだを撮り続けた。これが私の『まちまもり』。臼杵市はみだりに古いものを壊さ ない『待ち残し』による『町おこし』をしている。ここに理念とすべきものがある。
臼杵は背筋の伸びた、正気の保てる街だ。21世紀を戦争の世紀にしてはいけない。私 たちが何をすべきか考えるために、小さな街で一本の映画をつくった」と静かで穏や
かであるが、信念に満ちた口調で語った。
一方、後藤市長は「セメント工場建設反対運動に関しては、原罪意識がある。信念 を貫いたことはいい。しかし、工場建設を望む人々の方が多く、臼杵の街を二つに割
ってしまった。これを元に戻すことは難しい。少数意見を貫いた後ろめたさが付きま とってきた。でも今日、30年前の全面広告を引っ張り出して、『待ち残し』への重大
な覚悟を決めた」と心情を吐露した。最後に大林監督は「後藤市長は映画監督になれ る。なぜなら恐れを持つことが映画監督の資質だからだ。偉大な黒澤明監督でさえ、
OKの背後にある間違いに常に怯えていた。評価はOKを出したことが、人間を幸せにし たかどうかで判断される」と結んだ。 |
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