【1】─車窓から─
「北鎌倉の風」創刊号掲載、1999年3月、北鎌倉の景観を後世に伝える基金委員会発行

●目標は台峯の里山的実質保全

 車窓から眺める風景には独特の趣がある。とりわけ大船駅から北鎌倉に近づくにつれて、視界に飛び込んでくる風景は、それが顕著だ。都心からわずか一時間あまりの距離なのに、豊かな緑が、円覚寺、東慶寺などをごく自然に包み込み、北鎌倉独自の街並みを生み出している。
 私は、円覚寺裏手の六国見山の中腹に住んでいる。山歩きが好きだ。六国見山にはしょっちゅう登っている。正面に今回のトラストの対象になっている台峯が見え、その先には腰越の海が広がる。空気が澄んでいれば、右手に富士山が望める。
 機会があれば、是非一度、六国見山に登っていただきたい。車窓から眺めるのとは別の視点から、北鎌倉の街並みにとって緑がいかに重要かが、自分自身の目で確かめられると思う。そして、頂上で台峯の緑が失われた北鎌倉の街並みをイメージしてほしい。
 そうすれば、私たちがなぜ、トラストの名前を「北鎌倉の景観を後世に伝える基金」にしたのか、なぜ、こんな素人集団が「座して待つわけにはいかない」と立ち上がったのか、その理由を必ずや理解していただけると思う。
 私たちのトラストのコンセプトは二つ。台峯を里山的に実質保全すること。この創刊号はその世界のトップランナーというべき方々に寄稿していただいたが、根っこに流れる思想は自然と人間の共生だ。自然と人間が対峙し合うのではなく、交じり合うこと。その実践の場の一つが里山なのだ。
 二番目に政治活動にしない。その旨、規約に盛りこんだ。基金の運営及び財産管理を適切に遂行するため、委員会を設置した。理由は小回りがきき、自発性が発揮しやすいし、小人数の委員会が、台峯を里山的に守るという基本方針で一致しているから、政治の介入を避けやすい。
 逆に独善に陥る危険性もある。そこで、会計、活動報告を公開し、会員や寄付をいただいた方とのコミュニケーションを図り、意見、要望に耳を傾ける努力が課される。
 この基本コンセプトの他に基金の特徴は、自立の思想の追求と地元密着、全国展開の両にらみであること。自らの街をどうすべきかについて、市民として私たちや、政治や行政に依存しすぎてはいなかったか。自ら住む街がこうあってほしいなら、自ら汗をかこうではないか。その当たり前のことが、このトラストを通じて、実践できればと願っている。
 この「北鎌倉の風」創刊号はこうした思いを込めて、作成した。シンボルマークのオオタカは、台峯の森から今、飛翔した。きたかまくらのまちなみをほぜんするのに力を貸してください、とのメッセージを込めて…
(編集後記にかえて)
野口 稔 北鎌倉の景観を後世に伝える基金委員会・広報担当委員