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 谷戸に春がやってきた
    ―里山には人のにぎわいが似合う―  


 北鎌倉の冬は、都心に比べて寒い。北風の通り道になっているからだと聞いたこと がある。その北鎌倉に春がやってきたことを、2月17日(日)の「北鎌倉の景観を後 世に伝える基金」の定例行事「なだ いなだと北鎌倉周辺をあるく」(毎月第3日曜 日開催)で知った。台峯緑地の木陰にひっそりと咲いていた「ウグイスカズラ」が教 えてくれたのだ。ジッと目を凝らさないと見過ごしてしまうほど小さな野に咲く花だ 。台峯緑地では、春が来ると最初に咲き、春の訪れを告げる。
▽進む湿地の乾燥化
 「なだ いなだと北鎌倉周辺をあるく」には、1998年11月23日にスタートして以来 、カメラを携えてほぼ毎回出席している。台峯は、どこにでもあるような里山なのだ が、足を運ぶ度に新たな発見があるから不思議だ。この日はあらためて、「自然とは 何か」を考えさせられた。台峯の生態系は湿地をベースにして成り立っている。こう した里山を関東では、谷戸と呼ぶ。昔は、豊かな森が、雨水を貯水し、その水がしぼ り水となって、小川が作られ、水田へ注ぎ込まれていた。しかし、宅地開発計画が持 ち上がり、水田の耕作が放棄された結果、今は荒れ放題になっている。
 かつて水田だった場所に、本来なら草原や山に生えるはずの草木の姿が目立つ。水 田の横を流れていた小川も、しぼり水を水田に注ぐ必要がなくなったためか、大地を えぐる格好になり、渓谷化しつつある。湿地の乾燥化がかなりのスピードで進行して いる。山の手入れがなされないため、竹やぶの増殖ぶりも目立つ。竹やぶをすみかと するウグイスに、とっては天国だ。台峯は密集度の高さでは、日本有数のウグイスの 生息地になっているという。
 天敵がいないから、タイワンリスもどんどん増えている。限られた自然だから当然 、餌が不足する。至る所で餌を求めるタイワンリスに皮を剥かれ、無惨な姿を晒す樹 木を見かけた。「弱肉強食」を絵に描いたような世界が、目の前に広がっている。「 自然とは元々こういうものだ」という意見もあるだろうが、台峯の里山としての自然 は、今や崩壊の危機にある。
▽遂にホオジロを撮った!
 「なだ いなだと北鎌倉周辺をあるく」は東慶寺のすぐ近くにある山ノ内公会堂に 集合し、台峯緑地を通って、中央公園まで歩く。ゴールの中央公園では、炭を焼いて いる市民グループがいた。たき火を囲んで、子供たちが昼食の最中だった。私もその 中に入れてもらって、妻の手づくりのお弁当を食べた。網の上で、椎茸やお餅が焼か れていた。煙が目に入ったが、煙の匂いに安らぎを感じた。昼食を終えると顔見知り の一人が、「野口さん、スミレが咲いているよ。見ていかない」と、スミレが咲いて いる場所に案内してくれた。
 その場所は炭焼きに使う樹木が間引き伐採され、下草も刈られていた。柔らかな春 の日差しが、スミレの上にさんさんと降り注いでいた。今回掲載したオオタカの写真 を提供してくれたKさんは、台峯を心底愛し、その自然を40年間にわたって撮り続け ている。そのKさんは「子供の頃、台峯の田んぼのあぜ道から仰ぎ見る空は抜けるよ うに青く、明るかった。ツリフネソウの大群落があって、大勢の人が見に来た。今は 人の手がまったく入らないから、木が生い茂り薄暗い」と当時を懐かしむ。荒れ放題 で人が寄り付かないのでは、里山とはいえない。やはり、里山は人の手入れとにぎわ いが必要なんだと思った。台峯の頂上付近の畑で、羽を休めているホオジロをカメラ におさめることができた。これほど鮮明に、野鳥を撮影できたのは初めてだ。いい一 日を過すことができた。
▽もうすぐ一番あでやかな季節が
 寒い分だけ春に向けてのエネルギーを溜め込むから、北鎌倉の春本番は一気に弾け る。時期は3月末から4月上旬だ。ヤマザクラが爆発的に咲く。寒い冬が終わり、北鎌 倉の一番あでやかな季節が間もなくやってくる。
*「北鎌倉の景観を後世に伝える基金」のホームページには、台峯緑地に生息する動 植物のカラー写真が掲載されています。
http://www.kitakamakura-trust.org/
*炭焼きに関する情報は「山崎の谷戸を愛する会」のホームページを参照して下さい。
http://www.geocities.jp/ozikudo/yato/


 


台峯上空を飛翔するオオタカ
六国見山山頂の山桜
可憐なスミレ
羽を休めるホオジロ
竹やぶの中のウグイスの巣
炭焼き風景
無惨にも皮をはがれた樹木

 

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